映画『ダンケルク』ネタバレなし感想レビュー【アカデミー賞2冠は納得の戦争体験】

第90回アカデミー賞にて3部門受賞!

ノミネートは8部門。
その中から録音賞音響編集賞編集賞と観た人なら誰しもが納得であろうこの3部門を見事受賞した。
編集賞のリー・スミスは『バットマン ビギンズ』以降すべてのノーラン作品で編集を手掛け、今作で待望のオスカー初受賞となった。

本記事はYahoo!映画に書いたレビューがもとになっています。
ネタバレはないので鑑賞前の方もぜひご覧ください。



リアルな戦場を描くタイムサスペンス

ノーラン初の実話を元にした作品。テーマは戦争だが結末は勝利でなく撤退。
物語はノーランらしからぬストレートなモノだが、見せ方は流石ノーランと言える。

物語は防波堤、海、空の3つのストーリーラインで進んで行く。

防波堤 - 1週間

メインパートとなるこの海岸は、とにかく絶望感に満ち溢れている。
大抜擢の新人俳優フィオン・ホワイトヘッドや、元1Dのハリー・スタイルズら若い兵士達が過酷な戦場からの帰還を試みる。

はじめて海岸に辿り着いた若き兵士と同じタイミングで、観客はその光景を目の当たりにする。
戦いを止め、ドーバー海峡を挟んだ母国からの救出を待つイギリス・フランス兵の数に圧倒される事だろう。
冒頭から耳をつんざく様な敵の激しい銃撃。
そして海岸では敵機のエンジン音、そして爆撃音。
これらが作品を通してイギリス兵達に迫る。
この環境下にいたら確実にどうにかなってしまいそうだ。

海 - 1日

このパートではドーバー海峡を挟んだイギリスから、自国の兵を救出に向かう一般人をマーク・ライアンスらが演じる。
彼らは誰に頼まれたわけでもなく自らの意思で戦場に仲間を助けに行く。
途中絶え間なく目にする駆逐された船や海岸から上がる狼煙、悲惨な光景にも決心を変える事なく。

空 - 1時間

この救出作戦で動員された戦闘機の数はわずか3機。
ダンケルクへと援護に向かうパイロットの一人を演じるのはトム・ハーディ。
彼らなくしてこの偉大な救出劇は成し得なかったろうと思わせる。
実際の機体にIMAXカメラを取り付けて撮影された戦闘シーンは大迫力だ。

交差するストーリー

これら3つが作品を通して進み、そして絡み合う。

序盤、海軍将校達が話す「イギリスが予定している救出兵の数」には耳を疑う。
終盤、実際に救出された兵の数にも驚きを隠せない。
そしてケネス・ブラナー演じる海軍中佐の決断にも大きく心を打たれた。

ダンケルクの予備知識

戦争映画でテーマが勝利でない以上、当然エンタメ性は薄い。
しかし興味がある人はこの恐ろしくもある圧倒的な映像体験をぜひIMAXで味わってほしい。
→劇場公開は終わってしまったが、アカデミー賞受賞を機にこの作品を観る際はぜひ大画面、大音量での鑑賞をお勧めしたい。

日本人に馴染みのないダンケルクの戦い予備知識として、公式がYouTubeにアップしている林修のダンケルク解説動画を見てから行く事をオススメする。
林修先生が解説!3分で分かる映画『ダンケルク』

ノーランの想い

ちなみにノーランは今作品を単純な戦争映画でなくサスペンス映画だと語っている。
救出までの限られた時間を生きる人々のスリラー映画だと。
それは映画を観た後なら間違いなく納得できる。

今作はあえてR指定にしない事により目を背けたくなる様な子供達に見れないシーンはない。
それ故にノーランが改めて世界に広めたかったこのダンケルクの救出劇は、より多くの人々の記憶に残るだろう。
極限の環境下を生きた人々と、誰かの為に危険を恐れず進む人々の勇気を。

物語のラスト。
イギリスに語り継がれる名演説が流れる。
それを聞けば誰しもが感動するものだが、戦場の彼らはそう感じないだろう。

そして彼らを見た観客たちも、以前とは違う角度でその言葉を受け止めるはずだ。


【感想】

キャストについて

主演のフィオン・ホワイトヘッド。
彼はこれといった代表作もなく、アルバイトをしながらオーディションに通う新人俳優だった。

ノーランは今作のメインキャストとなる若き兵士たちに、観客の知っている有名俳優の起用はあえて避けたと語っている。
何のイメージもない一兵士として見れることが、この映画へのより一層の没入感を生んだと言える。

フィオン自身も撮影後のインタビューで、現実と違わないロケーションに身を投じることで、特に意識せずとも本当の恐怖心から自然体の演技ができたと話している。
それこそがノーランの意図した事だった。
実際の戦場でもフィオンのように何も分からないような若き兵士達がたくさんいた事を伝えている。

そんな若手俳優たちの脇を支えるのは名優たちだ。
海パートのマーク・ライアンスは信念を持って正義を貫く姿を演じる。
現実でも彼のように勇敢な人々がたくさんいたということを尊敬する。

パイロットを演じるトム・ハーディは実質主役と言ってもいいぐらいかっこいい。
海軍将校のケネス・ブラナーも最高にかっこいい。
この2人はとにかくかっこよくてかっこいいとしか言えない。

作品について

『ダンケルク』のアカデミー賞3部門受賞は本当に嬉しい!
劇場で観た際は耳が痛くなるようなリアルで激しい銃撃音にビクビクした。

本作はR指定がない。
リアルな戦場の恐ろしさを派手な流血やグロテスクな描写なしで表現するのは簡単ではない。
しかし『ダンケルク』は大迫力の映像と、生々しい音響により見事戦場の恐怖を観客にも味わせている。
それに大きな仕事をしているのがノーラン作品お馴染みのハンス・ジマーの音楽だ。
彼の楽曲が緊張感や、重低音による圧迫感を演出している。
作中メインテーマである「The Mole」のチクタクという時計の針の音が終始流れる。
映画『ダンケルク』メインテーマ曲 - The Mole

物語は3つのストーリーラインが巧みに交差する。
観客はあるタイミングでこの意図を理解する事になる。
実際の戦争をもとにした物語な以上、派手な盛り上がりをいくつも見せるわけではないがこれにより面白い映画になっている。
さすがノーラン、そしてさすがリー・スミスと言える。

個人的な2017年の映画ランキングでは3位にあげたが、本当に劇場で体験して良かったと思える映画だった。

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